トカゲなる日々

劇団万国トカゲ博覧会の生態

ハーレムからあぶれるオス

男がモテるための条件は、かつてはごく限られていた。見映えがよい、経済力が豊か、タフでたくましい、何かの才能に恵まれている等々。家柄が大いにモノを言った時代もあるが、現代の大衆社会になってその価値が低下したのと入れ替わりに、女に評価される才能の種類が増えていく。かつては学問、芸術、歌舞音曲などの芸能に限られていたが、今やそこに人を笑わせる才能が加わった。「彼って面白くて楽しい人ね。恋人にする気にはならないけど」という時代を経て、〈面白い男〉が本当にモテる時代が到来したのだ。
「オスにとって、どうやってメスを獲得するかというのは重大な問題です。二枚目、金持ち、筋肉男、秀才ぐらいしかパターンがなかった時代はつらすぎです。そんなん単純すぎて、なんか野蛮やないですか。モテる条件が増えるほど人間は文化的になっていくんです。つまり人類の進化です。無口で気配がしないからモテるとか、オタクやからモテるとか、もっとパターンが増えたらいいですね。・・・
有栖川有栖 「菩提樹荘の殺人」 2013年 文芸春秋 p125

補足しますと、上記の話者は駆け出しのお笑い芸人です。
モテるモテないならともかくこれが女性ファンつまりお金を出してくれる観客となると、限られたパイを芸術と歌舞音曲とお笑いと、見映えがよい芸能人とたくましい芸能人と無口で気配がしない芸能人とオタクな芸能人のそれぞれで分かち合うので食べていけない上に、よりニッチな一角を狙った新規参入者が絶えないのではないかと。
大衆社会になって娯楽が増え、観客それぞれのニーズによりマッチするものが提供される様になったのと反比例して一つ一つに対する客数は減り、提供側の懐はとことんお寒い訳ですが、だからといって娯楽が一種類しかなければそれは別のところが戦時下の日本文学報国会並に貧しくなってしまいます。芸の道を志す者は最低賃金の確保なんてものは諦めて、少数でも良い評価をしてくれる観客を探す方がお互い幸せになれるんでしょうか。

・・・人を笑わせる芸に「面白いことを言ったのに笑わないのは客が悪い」は決して通らず、受けなかったらそれで失敗だ。それに対して小説の場合は「失敗作や駄作はこの世にいくらでも存在するにせよ、読者は能力に応じた作品しか面白がれないないから、少数の読者にしか受けなくてもそれだけで書き手が恥じることはない」と思えば、作者は自尊心を守れる。こちらは逃げ道があるわけで、漫才師が背負う厳しさは作家を超えていそうだ。
同上 p132


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